気のいい火山弾 宮沢賢治 気のいい火山弾 ある死火山のすそ野のかしわの木のかげに、
「ベゴ」というあだ名の大きな黒い石が、
永いことじぃっと座っていました。
「ベゴ」という名は、その辺の草の中にあちこち散らばった、
かどのあるあまり大きくない黒い石どもが、つけたのでした。
ほかに、立派な、本とうの名前もあったのでしたが、
「ベゴ」石もそれを知りませんでした。
ベゴ石は、かどがなくて、丁度卵の両はじを、
少しひらたくのばしたような形でした。
そして、ななめに二本の石の帯のようなものが、
からだを巻いてありました。
非常に、たちがよくて、一ぺんも怒ったことがないのでした。
それですから、深い霧がこめて、空も山も向うの野原も
なんにも見えず退くつな日は、かどのある石どもは、
みんな、ベゴ石をからかって遊びました。
「ベゴさん。こんちは。おなかの痛いのは、なおったかい。」
「ありがとう。僕は、おなかが痛くなかったよ。」
とベゴ石は、霧の中でしずかに云いました。
「アァハハハハ。アァハハハハハ。」
かどのある石は、みんな一度に笑いました。
「ベゴさん。ゆうべは、とうがらしを持って来てやったよ。」
「いいや。昨夜、君はこっちへ来なかったようだよ。」
「アァハハハハ。アァハハハハハ。」
かどのある石は、もう大笑いです。
「アァハハハハ。アァハハハハハ。どうも馬鹿で手がつけられないよ。」
丁度その時、霧が晴れて・・・
宮沢賢治 気のいい火山弾
posted by りゅうせい at 18:37|
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